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【研究余滴】

古文書の文法「已上」について

                              水野青鷺

 だいぶ以前に、筆者が本会に寄稿した研究ノート「『金切裂指物使番』にみえる『水野久右衛門尉』」に関連した〝水野久右衛門尉〟の人物像については、その後も研究を続けてはいるものの、誠に恥ずかしながら遅々として捗って居ないのが現状です。
 さりながら、この〝水野久右衛門尉〟と、昨年〝第1回 水野氏史研究会主催講演会〟で講演しました「鋳物師 水野太郎左衛門――その氏族と作品――」に関する古文書の中に、共通した文法で記された文言があり、それぞれの資料作成の際にいろいろと調べてはみたものの、残念ながらその書法のもつ意味合いが判らず終いのままでした。

 その書法とは、袖(文書の初め、右端の余白)に、「已上」(=以上)と記された文言があるものです。([正則発給文書のイメージ画像]を参照)
「以上」とは、通常文書の〝末尾〟に記して「終わり」の意を表す文言でありますが、問題とするこれらの文書には、〝冒頭〟に大きく「已上」と記されているのです。

 最近ある研究会に参加した際、某先生にお伺いしたところ、愛知大学教授山田邦明先生がお詳しいとお教えいただきました。早速参加されていた山田先生にその旨お尋ねいたしましたところ、誠に簡潔で明解なご教示をいただきましたので、漸く長年の謎を解くことが出来ました。その後も諸先生にいろいろご教示を賜りました。ここに記して感謝の意を表します。

 以下に簡単ではありますが「已上」について判明した内容を記します。

●已上・以上
 以て上がる。
  以て=くぎり・限界を示す。「これを―終了」出典:「デジタル大辞泉」
  上がり=物事の終わり。出典:「デジタル大辞泉」
これをもって終わりとする。

●「書止(かきとめ)」は、「以上」「端書無之」などで締める
(1)追而書(おってがき)とは、尚々書(なおなおがき)とも呼ばれ、中世の書状によく見られた書式で、書状本文の内容とは関係のない事柄を書状の端か、礼紙(らいし=書状の文言を書いた紙に重ねて添える白紙)などの別紙に書き添えること。現在の追伸に近い。書出が「追而申」(おってもうす)または「尚々」から始まることからこの名称が付いた。書止は「以上」「端書無之」(はしがきこれなし)などで締める。(出典:wikipedia「追而書」をもとに編集)

(2)追而書については、戦国時代後半から江戸時代初期にかけて、本文の重要な事柄を更に 強調するため同様の内容を再度記すことが常であった。従って追而書を記さない場合 には、この文書には「追而書・尚々書は書かれていない証」として「書止」の「已上」が用いられた。(山田邦明氏談話)


◆「已上」三例
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田中吉政書状(折紙)
 (包紙ウハ書) 
 「 関白様御時   (ママ)  
      田中兵部少輔殿 」

  已上
鐵屋職事、如先規可鑄之、御次目之、御書、重而申上可遣之條、可有其心得、
今度於清須、上様御釜、無由断出来候様ニ、可為専用候、謹言、
天正十八      田中兵部大輔
    十一月八日    吉政(花押)
   鐵屋
    太郎左衛門殿
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慶長三年一一月 福島正則より諸役免許の判物 (水野太郎左衛門資料七)
 (包紙) 
 「羽柴清須侍従様
        御墨印」

    以上
 鉄屋大工職事任先判旨申付候、幷家屋敷ニ付、門次之諸役令免許之状、件如、
慶長三年     羽柴清須侍従
    十一月十三日 正則(花押)
      清須鉄屋大工かしら
       太郎左衛門とのへ 
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久留島家文書
 福島正則宛行状 折紙
「福嶋左右衛門太夫様ゟ/水野内記 江/御書壱通/於鍋様御物成書附入/三十番」

以上

安芸之國加茂郡
之内を以六百拾八石
三斗河尻村同國
あんほく郡之内を以
弐百石とけ村
都合八百拾八石三斗
者如前々其方へ
令進入候全所務
可有之候仍如件

    羽少将
慶長拾五年
 十二月七日  正則(花押)

 水野内記殿
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[正則発給文書のイメージ画像]
e0144936_16595557.jpg


◆「端書無之」の二例
西谷山 西照寺文書
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     端 書 無 之
 就今度其方帰参 木佛 以下虫喰 言上候処被成 御免候間難有可為到安置候
御礼之儀者追而  御染筆、可被成候条可為得其意候猶其節此一紙可差出候不宣
                          下間刑部卿法橋
                             頼源花押
            正徳四年甲牛六月三日
               越中国射水郡西田村   西照寺 祐慶
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     端 書 無 之 
 就今度其方帰参 御開山様御影太子七高僧御影御裏申替願之通遂言上候処此節
御用多故御裏 御判形ニ而先被成 御免候間難有被存候御裏之儀者追而 御染筆
可被成下候不宣                     
                         下間刑部卿法橋
                                   頼源花押
            正徳四年甲牛五月十二日               
越中国射水郡西田村   西照寺 祐慶
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by mizuno_clan | 2012-12-05 17:10 | ★研究余滴