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沼津水野藩の黒船対処
                                                  水野青鷺

 『大日本古文書』東京大學史料編纂所 には、アメリカ合衆国海軍・東インド艦隊(マシュー・ペリー提督)が、江戸湾浦賀に来航した嘉永六年(1853)六月三日の二カ月後、ペリーから突き付けられた米大統領からの国書に対応すべく、沼津藩主水野出羽守忠良(ただよし)から幕府に宛てた意見書が掲載されている。この意見書から水野出羽守忠良は尊王攘夷派であったことが窺われる。これを沼津水野藩の一史料として引用し、浅学ながらも一応読み下した。誤謬を正していただければ幸甚です。
 また「伊豆相模武蔵安房上総下総 海岸御固泰平艦」の図には、沼津藩の警固内容が列記されている――
 駿州沼津伊豆長津呂
 五万石駿州沼津
水 野 出 羽 守
人数二千五百人 諸大夫
――この地図の右下に伊豆國がデフォルメされ描かれているが、添付した現代地図での該当地は、伊豆半島最南端の石廊崎長津呂(静岡県賀茂郡南伊豆町石廊崎)であり、同族鶴牧水野藩が警固する上総鶴牧木更津海岸(千葉県市原市椎津)とは随分と距離がある。差詰め沼津藩主水野出羽守忠良が護る石廊崎長津呂は、謂わば日本国の天然の外濠内に設けられた朱雀門にあたり、木更津海岸は内濠に面した多聞櫓の一つとでもいうべき存在であったろうか。


●『大日本古文書』幕末外国関係文書之二
嘉永六年癸丑(耶蘇起源千八百五十三年)
一 [嘉永六年]八月二日駿河國沼津城主水野出羽守忠良上書 幕府へ
    米國國書に就いて
 此度アメリカより差出候書翰之和解一覧被 仰付、存寄之品も有之候ハゝ可申上旨、委細御達之趣奉得其意候、得与熟問(閲カ)仕候處、何様不容易筋ニ有之、不肖之私抔中々以て存付可申上樣も無御坐候、勿論申上候迄も無御坐候、外夷之通信通商者、元来御大法にて所詮御取上被遊候義と者不奉存候、萬一假にも其端を御開被遊候ハゝ、所謂無願(厭カ)之儔ニ候得尤、追々願望増長難計、其上彼國にハ限り不申、外々之諸夷とも同様願立候節、御處置如何と奉存候唯々卓越之 御國法を主とし、御解諭被遊方ニ可有御坐候哉、尤御許容無之上者、虎狼心之虜共故、如何様之不法亂妨にも及可申哉、就而て近海を初内海之方夫々御備向之義者、彌以厳重之御手配万々被為在候事と奉存候、且又難船漂流之者御撫恤 被成下度旨申立候、右者近来之被 仰出之趣も有之御儀ニ候得者、實ニ難船ニ相違無之者者、一通御救ひ被遣候儀可有御坐、其段者兼々御諭示被成置可然哉ニ奉存候、右躰不調法之義申上老も、重々恐入候得とも、格別之蒙 御沙汰、黙居候も却々如何ニ付、不顧恐愚意之儘申上候、御取捨可被成下候、以上、
  丑八月二日                   (忠良、沼津城主)
                            水 野 出 羽 守


1 嘉永六年(1853)八月二日、駿河の国沼津城主水野出羽守忠良の上書(*1) 幕府へ
    米國國書(*2)に就いて
 このたび、アメリカから提出された書状(国書)の和解一覧(*3)をおおせつけられ、意見を申し述べたい事柄がありますので、その旨申し上げます。詳細はご通達内容によりその意を得て充分に調べましたところ、何と申しましても、たやすくいくものではなく、愚かな私などには、なかなかに思いつき申し上げる方法も無いことは、もちろん申し上げるには及びません。外国と国交を結び交易を行うとはいっても、本来は国家の法に基づいて、結局のところお取り上げになられる意義であるとは存じません。もし仮にその手掛かりを作られるならば、世にいわれている、これに満足することのない連中であることから、次第に願望が増長することは計り知れません。その上アメリカとは限らず、諸外国も同様に国交を結ぶ事を表明してくる情勢にあることから、そのご対処はどうしたものかと存じ、ひたすら諸外国よりもはるかに優れた国法を主とし、アメリカに対し説得されるべきであると申し上げます。当然許し受け入れることができれば最上ですが、貪欲で残忍な心の虜となった人達であるが故に、どのような無法な暴力により、強奪を行うであろうかと推測申し上げます。つきましては、近海を始め湾内もそれぞれが警備するにあたって、最も厳重に各藩それぞれに振り当ててご準備を充分になされる事であろうと存じます。かつまた難破船漂流の者に対しては、慈しみ哀れみ、物を恵み下げ渡されますよう申し述べます。このことは近頃お命じになられた事柄から、確かに難破船に相違ない者は、一当たり救助なされるのが望ましく、その件は予めご通達になられるものと推量いたします。さらに申し上げますれば、以上のように行き届かない内容で、重ね重ね恐縮ですが、特別に書状和解一覧のお指図をいただきながら、何もしないでいることは、却ってどんなものであろうかと、慎みを顧みず愚案のままを申し上げることにいたしました。アメリカからの国書はお取り捨てになられるべきと存じます。 以上
  嘉永六年癸丑八月二日              水 野 出 羽 守 忠 良


[註]
*1=じょうしょ。意見書を目上の人または官庁などにさし出すこと。また、その書面。
*2=こくしょ。一国の元首がその国の名をもって発する外交文書。外交交渉における公文書の総称。特に、条約・宣言・通牒(つうちょう)などの法律的効力をもつ文書。
*3=わげいちらん。外国語を日本語に翻訳し、全体の概略が簡単にわかるように纏めたもの。


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===解説===
今般、本ブログ開設にあたり、先ずは「投稿サンプル」の一つとして、事務局世話人水野青鷺がプライベートブログ「∞ヘロン『水野氏ルーツ採訪記』」に投稿した拙文を転載しました。

by mizuno_clan | 2008-03-13 14:46 | ★研究ノート